みなさんも経験があるかもしれません。
「最近、忘れ物が多いなあ」
「ここに置いたはずの財布、どこに置いたのかしら?」
「ご近所の人の名前が出てこなくて...」
こうした「物忘れ」で「もしかしたら認知症かも」と心配している方もいるかもしれません。確かに物忘れは記憶の障害です。でも、歳をとれば誰でも物忘れが多くなるのも事実です。これらの病気ではない物忘れ=加齢による物忘れは「良性の健忘」のため、心配するには及びません。「ボケ」は、こうした加齢による精神変化として使われる言葉です。
一方、認知症は日常生活に支障をきたす疾患です。加齢による物忘れは、体験の一部を忘れているだけで、きっかけがあれば思い出せますが、認知症は体験のすべてを忘れているのが特徴で、忘れていることすらわからない場合があります。つまり完全に記憶が抜け落ちているのが認知症による物忘れです。例えば、昨日の夕飯に何を食べたかを忘れているのは、加齢による物忘れですが、食事をしたこと自体を忘れているのは認知症です。また、孫の年齢や名前を忘れているのは単なる物忘れ、孫のいること自体を忘れているのも認知症です。
認知症の方は短期記憶障害により、直近の出来事を思い出すことが苦手です。
などが認知症の典型的な短期記憶障害の症状です。ただし加齢による物忘れと認知症による物忘れを、厳密に区別することは容易ではありません。自分では、あるいは家族も単なる物忘れだと思っていたことが、認知症のサインだということもあります。
駅や町中で怒声をあげている高齢者や店員さんに突然怒り出す、いわゆる「キレる老人」を目にすることがあります。以前は穏やかだったのに、最近やけに怒りっぽくなった、という急な性格の変化は注意が必要です。それは認知症の可能性が大きいからです。
認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の2つに分けられます。中核症状は脳の神経細胞が障害されたことによって直接起こる症状で、これは認知機能が低下した人であれば誰にでも出現する症候群です。
[記憶障害]
さっき聞いたことが思い出せない。覚えていたはずの記憶が失われる。新しいことが覚えられない。
[見当識障害]
時間、季節、場所、人物などがわからない。今日の日付が出てこなかったり、通い慣れた場所へ行けなくなったり、知っているはずの人を見ても誰だか思い出せなくなる。
[理解・判断力の障害]
考えるスピードが遅くなる。一度に処理できる情報量が減るため、同時に2つのことができなくなる。いつもと違う出来事(例えば葬式など)で、混乱しやすくなる。
[実行機能障害]
段取りや計画が立てられない。家電や自動販売機などが使いこなせない。
[失認]
体の器官に問題はないのに、知覚したものを正しく把握することができない。例えば、人の顔や遠近感がわからなくなったり、知っている音を聞いても何の音かわからなくなったりする。
[失語]
「聞く・話す・読む・書く」ができない。他人の話すことは理解できても、自分のいいたいことをうまく話せない「運動失語」、相手の話が理解できない「感覚失語」、物の名前などが思い出せない「呼称障害」などがみられる。
[失行]
服の着方を忘れて洋服が着替えられなくなる、箸の使い方がわからなくなるなど、それまでできていたことができなくなる。
一方、行動・心理症状は、中核症状の状態、本人の性格、身体状況、生活環境、人間関係などによって左右される症状で、そのあらわれ方は人によって異なります。なかにはほとんど出ない人もいますし、ある症状が極端に強い人もいます。
行動症状(行動異常)は、
など。
心理症状は、
などがあげられます。