認知症と高齢者ドライバー

交通事故のイメージ

先日も観光地で、高齢者ドライバーの運転する車が一家3人に突っ込み、父親が死亡するという痛ましい事故がありました。この事故だけでなく、高齢者による交通事故のニュースが後を絶ちません。中には認知症の疑いのあるドライバーによる事故もあり、高齢化が深刻化する日本では見過ごすことができない現状になってきていると感じます。

高齢の運転免許保有者の増加

平成28年末の運転免許保有者数は約8,221万人で、このうち75歳以上の免許保有者数は約513万人とのことです。これは、75歳以上の人口の約3人に1人の割合で、今後も増加するとのことです。総人口が減少するなかで、高齢者人口が増え続けることで2036年には3人に1人が高齢者という時代がきます。
2042年には総人口が減少に転じても、高齢化率は上昇を続け、2065年にはなんと38.4%が高齢者となる予測がでています。高齢化率が高い状態のあいだは、運転免許保有者の高齢化も続くと思われます。
平成29年「交通安全白書」/ 内閣府

加齢に伴う高齢者の身体的特性

  • ・視力等が弱まることで周囲の状況に関する情報を得にくくなり,判断に適切さを欠くようになること
    ・反射神経が鈍くなること等によって,とっさの対応が遅れること
    ・体力の全体的な衰え等から,運転操作が不的確になったり,長時間にわたる運転継続が難しくなったりすること
    ・運転が自分本位になり,交通環境を客観的に把握することが難しくなること

このように、加齢により動体視力の低下や複数の情報を同時に処理することが苦手になったり、瞬時に判断する力が低下したりするなどの身体機能の変化によって、ハンドルやブレーキ操作に遅れが出るなどの特性が見られるとのことです。
高齢運転者の特性については、年齢や体力、過去の経験等によって大きな個人差があり、実際にお元気な方もおられますが、こういった特性が75歳以上の運転者が死亡事故を起こしやすい要因の一つになっているものと考えられます。
これに加え、認知機能の低下も懸念されるとされています。
警視庁によれば、平成28年に運転免許証の更新の際に認知機能検査を受けた75歳以上の高齢者約166万人のうち、約5.1万人は認知症の恐れがある第一分類と判定されたとのことです。

高齢者ドライバーによる事故の事例

以下は、「薬いらずで認知症は防げる!治せる!認知症で後悔しない3つの方法」より抜粋した記事をご紹介します。

認知症ドライバーによる「危険運転」は深刻です。2016年、横浜市で集団登校中の児童の列に軽トラックが突っ込み、児童ら11人が死傷した事件がありました。運転していたのは87歳の男性でしたが、彼は走行経路の記憶がなく、事実と違う供述を繰り返していたそうです。

高齢者のドライバーによる高速道路の逆走も目立ちます。警察庁によると、2014年8月までの2年間において、高速道路での逆走は447件。そのうち約7割が65歳以上のドライバーで、認知症の人、あるいは認知症の疑われる人は約4割にのぼるということです。

2009年には、75歳以上の高齢者に免許更新時の認知機能検査を行い、

「認知症の恐れがある」(第1分類)
「認知機能低下の恐れがある」(第2分類)
「低下の恐れがない」(第3分類)

とする制度を導入し、第1分類の人が信号無視などの交通違反を犯し、医師が認知症と断定すれば、免許取消処分にしてきました。
2014年6月施行の改正道路交通法では、運転に支障を及ぼす恐れのある病状の申告が義務づけられており、さらに75歳以上のドライバーが、逆走や信号無視などの交通違反を犯し、「認知症の恐れがある」と判定された場合には、認知機能検査が義務づけられています。しかし、認知症高齢者の事故は後を絶たず、認知症と判定されても車の運転をしている人は、予想以上に多いと見られています。

前出の横浜市で事故を起こした男性も、3年前の免許更新時の検査では問題がないとされていたそうですが、認知機能は、急激に低下することもあります。しかし、認知症の診断には誤診が多いという実態があり、安易な診断で、進行を止められるはずの症状が放置される現状もあります。軽度認知障害(MCI)の段階で進行を止められたら、免許の取消も、不幸な事故が起こるリスクも、効果のない治療薬で症状をさらに悪化させることも防げるはずです。

法改正をしたのにもかかわらず、2015年の1年間で、より過失が重い第一当事者となった死亡事故458件を分析した結果、75歳以上のドライバーで免許更新時に「認知症の恐れがある」の第1分類とされた人はたった31人にとどまり、第2分類が181人と4割近いことが判明したそうです。

この本の著者である佐藤先生が仰るように、認知症の診断には誤診が多いという実態があるのでしょう。
このような背景があるからなのでしょう、2017年3月に道路交通法の新たな改正が施行されました。

2017年3月施行の改正道路交通法について

2017年3月に施行された改正道路交通法では、75歳以上の高齢者ドライバーについての内容が大幅に変更され、認知症患者の免許を取り消すことができる手続きが明確にされました。
75歳以上の人は免許更新時に認知機能を調べる検査を受けます。

  • ・「認知症の恐れがある」(第1分類)
    ・「認知機能低下の恐れがある」(第2分類)
    ・「低下の恐れがない」(第3分類)

上記のどれかに判定されます。

これまでは第1分類の人のうち、信号無視などの一定の交通違反をしている人のみ、医師が認知症と断定すれば免許取消処分にしてきました。

ですが、改正道路交通法では第1分類の全ての人を診断の対象にした上、逆走などの定められた違反のいずれかをした人も臨時の検査を受けるようになりました。
この認知機能検査によって、認知症のおそれがあると判断された場合、臨時適性検査(医師の診断)を受けるか、主治医等の診断書を提出しなければならないとされています。

まとめ

改正道路交通法が2017年3月に施行され、2017年の12月までに第1分類の「認知症の恐れがある」の判定を受けた高齢者は約4万6900人います。対策が強化されたとはいえ、原則6カ月後の診断書提出を条件に免許更新を認められた高齢者は7133人もいたそうです。

明白な認知症とは言えず、免許取り消しや停止にならなかったとのことで、ここでも認知症の診断の難しさが伺えると思いました。認知症を正確に診断できる医師が圧倒的に少ないのだと思います。

シニアマークと自動運転のイメージ

過疎化が進む山間部に住まうご年配の方など、通院や買い物などで車がないと生活に困る方々もたくさんおられるでしょうから、一律に免許取り消しにできない背景もわかります。ですが、認知症リスクを抱えた高齢者ドライバーは、加害者にも被害者にもなりうる存在です。

高齢化率が上昇を続け、2036年には3人に1人が高齢者という時代、ますます高齢ドライバーが増加するでしょう。認知症でなくとも、高齢者は加齢に伴う身体的特性が低下してきます。痛ましい交通事故を減少させるためには、もう一歩踏み込んだ免許の自主返納の取り組みが必要と言えるのではないでしょうか。
とはいえ、車の自動運転技術などの進化によってすべての人が自動車の利便性を享受できればいいな、と思います。